IR法案 ギャンブル依存症への懸念


 11月30日に、統合型リゾート施設の整備を推進する法案(IR法案)が、衆議院で審議入りし、2日後には委員会で可決、12月6日に衆議院を通過しました。IR法案は、議員立法で、カジノやホテル、大型会議場が一体となった施設の整備推進を政府に促すもので、民間企業に賭博事業の実施権限を付与するものです。野党からは差戻し審議を求める声があがり、採決では与党公明党の一部議員が反対する事態も生じました。その背景の一つには、社会問題化しているギャンブル依存症への強い懸念があります。
 全国には、競馬・競艇・競輪・ オートレースといった公営競技の他、法的にはギャンブルとみなされていないパチンコ・スロットが約1万2000店舗存在します。ギャンブル依存症者は全国で536万人と推計され、有病率は4.8%で(2013年調査)諸外国(イギリス0.5%、米国0.4%、マカオ1.8% 、シンガポール2.2%など)と比べて突出して高くなっており対策の遅れが見て取れます。厚生労働省はギャンブル依存症の治療を行う医療機関が少ない、効果的な治療方法が見つかっていないなど「具体的な対応策の検討が喫緊の課題」との見解も示しています。
 2006年、市民社会チャレンジ基金を通じ、女性のギャンブル依存症者の回復支援を行うNPO法人ヌジュミの活動を知りました。田上啓子代表は、ギャンブル依存症者が多重債務や失業・犯罪・自殺など重大な問題を引き起こし、家族や周囲の人たちを巻き込み、暮らしが壊れていく様を当事者の声として発信し続けています。「世界の3分の2のパチンコ・スロット台が日本にある状況。広告は無制限、パチンコ店の中にATMが設置されている国は日本くらい。」といった問題も指摘し、予防教育や早期発見・治療、回復支援を後押しする制度の必要性を訴えています。
 自民党議員からは、すぐにカジノができるわけではないとの釈明も聞かれますが、詳細な制度設計を政府に委ね議論を先送りしたにすぎず、懸念を払拭するものではありません。国およびカジノ誘致に積極的な自治体こそ、ギャンブル依存症の実態調査を実施し、支援の現場の声に向き合い、問題の深層をとらえるべきです。拙速な議論はあってはならないと考えます。

【神奈川ネット情報紙No.375視点より】
 共同代表 若林ともこ(ネット青葉)